いきなり妙なタイトルですが、応荷重制御のお話です。
今走っている大抵の電車は、応荷重制御なるものを行っています。
応荷重制御とはその名の通り、荷重、すなわちお客さんの重さに合わせて加減速の力を変える機構です。それにより、乗客の多寡に関わらずほぼ一定の加減速を行えるようにするものです。応荷重制御のない電車では、空車時と満車時でブレーキ扱いなどに相当の差が出てしまいます。
「客の数ぐらいでそうそう変わるものなのか?」と思うかもしれませんが、満員と空車状態の差は相当なものです。
特に、最近の電車は軽量化されているため、より客数の影響が出やすくなります。例えばE231系10両編成の場合、編成重量は空車で約240t。編成定員は約1500人なので、1人を55kgとすれば客の重さは10両全体で82.5t。定員乗車で既に重量が3割増しぐらいになる計算です。これが朝のラッシュ時で200%になれば、客の重さだけで165t。編成重量で言うとは空車時の240tに比べて65%増の405tです。最混雑線区ならそれ以上になるケースもあるでしょう。
これで仮に応荷重制御でなければ、単純計算で昼間の閑散時には朝の1.5倍以上の加減速性能になってしまいます。加減速性能が高すぎるのは電気の無駄という点でも問題です。が、それ以上に重大なのが空転・滑走と呼ばれるものです。
電車の車輪がしっかり線路にグリップして回るようにするには、線路と車輪の間の摩擦係数と車両の重さとで求められる摩擦力の限界を超えて加速しようとしてはいけません。それを超えて加減速しようとすると加速力や減速力がレールに伝えきれずに、車輪だけが空転・滑走を起こすことになってしまうからです。
また、加速の場合だと、摩擦力として有効なのは実際に車輪を回そうとしているM車の重量分の摩擦力だけなので、MT比を低くすると、摩擦力の限界が小さくなり空転が発生しやすくなります。
この問題は、高度成長期頃に顕著になりました。その頃は、爆発的に増加する乗客を捌ききるため、鉄道会社は安価に大量の電車を作らなくてはなりませんでした。そこでMT比を下げることによるコストダウンを選択した各社は、空転・滑走への対策としてこの応荷重装置を広く導入したのです。
つまり、応荷重制御は空転・滑走対策として導入されたという面が大きいのです。
従って、空転・滑走と関係ない箇所では応荷重制御を必ずしも働かせる必要はありません。具体的には、高速域(モータの特性領域。通勤電車ならだいたい60km/h以上)の加速では応荷重制御をしていません。なぜなら、そもそも空転するほどの加速力がない場合が多いからです。ですから、高速域では乗客の多寡がそのまま加速性能に影響してきます。なので、応荷重制御があってもランカーブを乗車率に関わらず一定にできるというわけではありません。ダイヤ上の走行時間自体も5秒単位レベルでは変わりうることになります。
現在作りかけの相急のダイヤでも、走行時間は別々に計算しており、ラッシュ時の方が僅かに走行時間が長くなっています。
個人的には、実際の鉄道会社はどうしているのかが気になるところです。
#08/04/04 文章があまりに酷かったので修正。
この文章を書いている時点で、田園都市線に準急ができてちょうど1年が経ちました。
遅延対策として鳴り物入りで登場し、マスコミ等でも注目を浴びました。
ですが、ネットでの評判や公式サイトの遅延証明の履歴を見ると、やはり相変わらずある程度の遅れは発生しているようです。
そもそも、急行を各停にして混雑を平準化するということは、必ずしも遅延解消に繋がるものではないのです。
ラッシュ時の電車がなぜ遅れるかといえば、要するに乗降時間や戸閉めにかかる時間が所定より延びるからです。朝の田園都市線のようにダイヤが限界まで詰め込まれている路線では先発電車の遅れた分だけ後続も遅れ、その分客が増えて乗降時間が延び、さらに後ろの電車が駅の手前で……という形で、電車がいわば渋滞しはじめます。
準急が急行であれば、そのような渋滞が発生する箇所は比較的少なくてすみます。ある駅に停まる電車が少なければ、上のような流れで渋滞が発生することはほぼないからです。田園都市線の場合、2線の駅では交互発着を行うため、実際に渋滞するのは急行ダイヤならば二子玉川・三軒茶屋・渋谷ということになります。
これが準急になった場合、都心よりの各駅でドアを開閉しなくてはいけません。急行時代より多少空くとは言え、やはり駒沢大学以東では厳しいのではないでしょうか。四月などの混雑シーズンには、一駅あたりの停車や戸締めの時間が激しく延びることで急行時代より遅延が酷くなる可能性すらあるかと思います。
実際、東急の公式発表でも遅れは「5月の平日」で「約1分短縮」したとしか書いてありません。そして、東急はこの準急運転のために大幅な増員をしています。今までは急行停車駅中心だった押し屋を、旧新玉川線内各駅にまで配置したためです。
ここまでして準急運転をする意味は何なのか。それは、昨年6月のプレスにある準急運転のもう一つの効果、即ちホーム混雑の緩和だと私は考えます。
今年の3月の改正で、大井町線には急行が登場しました。急行があるということは、急行まで待つ人がホームに滞留することを意味します。
二子玉川駅のホームは、溝の口方が多摩川にかかっていることもあり余り広くありません。そこで大量の人が対面乗換をするので、ホーム上は準急運転前の頃は非常に混雑していました。準急運転の前年の改正では、プレス内に「始発の大井町線の入線を僅かに早めてホーム混雑を緩和する」といったようなことが書かれる程でした。
もし仮にそのような状況のまま、大井町線が急行運転を始めれば、ホーム上は更に人で溢れます。人の多すぎるホームというのは、危険に直結します。仮にホーム際ギリギリを歩いている人がよろけたらどうなるでしょうか。
そして、ひとたび事故が起きれば信頼はなかなか取り戻せません。この場合、ホーム混雑が原因で起きたことになるわけですから、東急の責任と言っても問題ない状況でしょう。マスコミによるバッシング、それに伴うイメージダウンなどはほぼ確実でしょう。
そういった事態を防ぐためという面もあって、一見あまり遅延解消になっていない「準急」はできたのではないかと考えます。